急速破壊型股関節症
原因は解明されていないものの、半年から1年程度の極めて短い期間で大腿骨頭や臼蓋が急速に破壊・吸収される特殊な股関節疾患です。
本症例の病態
大腿骨側
転子部骨折 + 骨頭圧潰(骨頭の形が崩れて崩壊)
骨盤側
臼底破壊(Medial wallの欠損、いわゆる AAOS分類/Paprosky分類における重度骨欠損)
病因・発症メカニズム
破骨細胞の異常活性
軟骨下脆弱性骨折
骨粗鬆症を背景として、大腿骨頭の軟骨下に微細な折れ(脆弱性骨折)が生じ、それを契機に急速な骨吸収・骨破壊反応が引き起こされるという説が有力視されています。
虚血性変化・関節内圧の上昇
関節液の急増や内圧上昇に伴う血流障害。
治療戦略(手術治療)
保存療法(薬物療法や免荷)で進行を止めることは難しいため、早期の人工股関節全置換術(THA)が第一選択となります。
手術における注意点・難しさ
骨欠損への対応
大腿骨頭だけでなく臼蓋側の骨欠損(Paprosky Type 2C/3Aなど)も著しいため、骨移植(Impaction Bone Grafting)や補強リング、Augment(オーグメント)を用いた難度の高い再建が必要になります。
軟部組織の脆弱化
骨破壊に伴い関節包や周囲筋群が著しく破綻していることが多く、術後の脱臼リスクが通常のTHAより高くなります。そのため、大口径ヘッドやデュアル・モビリティ(Dual Mobility)カップの採用が検討されています。

著明な骨粗鬆症・骨壊死像であり、骨包砕物や増殖した滑膜・炎性組織が充満しています。「スクリューが効きにくい」「通常のインプラントでは固定性が得られない」のが最大の懸念点です。
術式 「臼蓋再建 + 転子部ORIF + THA」
1. 展開(Approach)
転子部骨折部位を展開し、骨折線を確認。大腿骨頭を脱臼・切断して摘出する(圧潰した骨頭は骨移植用に保存)。
2. 臼蓋再建(Acetabular Reconstruction)
最重要ポイント:骨欠損部の再建とカップ固定
病変清掃
破壊された臼底の滑膜や壊死組織を徹底的に掻爬(キュレット、ルエル)。
骨移植(Bone Graft)
摘出した大腿骨頭の骨髄(あるいは同種骨/人工骨)をボーンミルやニッパーで砕き、破壊された臼底に自家骨移植(Impacted Bone Grafting)を行う。
同種骨を細かく砕き、専用の器具でしっかりと叩き込んで(圧密して)補填する
補強用リング/ケージ設置(必要な場合)
骨欠損が大きくカップのみで保持できない場合、Kerboullタイプリング や KTプレート などを骨盤にスクリュー固定する。

KTプレート
https://prdct-search.kyocera.co.jp/doctor/m_f/prdct/-kt-s-1.html#
Kerboull十字プレート
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/48/1/48_1_232/_pdf/-char/ja
リーミング + カップ固定
移植骨を押し固め(インパクション)、慎重にリーミング。マルチホール(多数のスクリュー孔がある)カップを打ち込み
3. 転子部ORIF + 大腿骨準備(Femoral Preparation)
骨折整復とステム設置の組み立て
骨折部の仮整復
砕けた転子部骨折を骨鉗子(Bone forceps)で仮整復し、ケーブル(Cerclage Cable System) や 大転子プレート で一時固定・補強。
ケーブル
プレート
ラスピング
転子部が折れているため、通常のショートステムでは初期固定が得られない。長めの ロングステム や モジュラー型(近位・遠位別々で長さを選べる)ステム 用のラスピング(Broaching)を行う。
遠位バイパス固定
骨折線を十分に越える長さのロングステムを用い、健常な大腿骨幹部遠位で固定性を得る。
4. インプラント試行・本固定(Trial & Final Implantation)
整復・安定性テスト・確実な固定
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トライアル(Head/Neck/Stem)を組み上げて整復。脚長差、脱臼耐性、緊張度(Tension)を確認。
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本体のステム・ヘッド・ライナーを導入。
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転子部骨折部の固定をケーブル増し締め(Tensioner)やプレートのスクリュー固定で最終完成させる。
5. 閉創(Closure):後方要素の再建と閉創。
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外旋筋群および関節包を大転子(整復後)にアンカーや穿刺糸で再構築(後方アプローチの脱臼予防)。
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ドレーン留置、層状縫合。
器械出し・外回り看護師としての臨床実践ポイント
① 器械出しのポイント
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自前骨(大腿骨頭)の取扱い:
切除した大腿骨頭は捨てず、滅菌で保持。臼底再建用の自家骨移植素材として使用するため、骨移植用の器械(ボーンミル、インパクター、骨移植用キュレット)を早めにセットアップする。 -
特殊インプラントの予備確保:
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カップ: マルチホールカップ(スクリュー追加用) や Kerboull型補強リング など
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ステム: ロングステム(Long Stem) や モジュラーステム(近位/遠位分割型)、セメントステム の選択肢を想定。
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骨折固定具: ケーブルシステム、ケーブルプレート の器具
② 外回りのポイント
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出血量(Blood Loss)の予測と準備
通常のTHAやガンマネイルよりも骨破砕・広範囲展開・骨移植を行うため、出血量は格段に多くなります(1,000mL〜を超えることも頻繁)。 -
急速輸血器(Level 1など)の確保。
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自家血回収装置(セルセーバー)のセットアップ。
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輸血製剤(RBC、 FFP)の事前確保・発注確認。
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体位保持(側臥位)の徹底
手術時間が長くなる(2〜4時間程度)ことが予想されるため、側臥位時の固定(骨盤ホルダー、枕)による神経麻痺(腓骨神経麻痺・上腕神経叢麻痺)や褥瘡の予防を厳重に行う。
参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/48/1/48_1_232/_pdf/-char/ja
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