心不全
- 心不全
急性心不全(AHF)
心臓のポンプ機能障害が急激に出現・悪化
初発の急性心不全、または慢性心不全の急性増悪
慢性心不全(CHF)
臓器の構造的・機能的異常が長期化し、心臓が「代償機構(心拍数を上げる、心筋を分厚くする等)」を使ってなんとか状態を代償させている状態。
「病態そのもの」というより、「時間の経過と症状の急激さ」で区別します。
心不全の主な分類と読み方
- HFrEF:ヘフレフ(駆出率低下心不全)
- HFpEF:ヘフペフ(駆出率保持心不全)
- HFmrEF:ヘフエムレフ(駆出率軽度低下心不全)
- HFimpEF:ヘフアイエムイーエフ / ヘフインプエフ(駆出率改善心不全)
心不全の要因
・高血圧症(HTN)
・持続性心房細動(PAF)
心不全とPAF(発作性心房細動)は、お互いに相手を引き起こし、悪化させ合う「悪循環(鶏と卵)の関係」にあります。
・心不全が存在すると、心臓の構造的・電気的な変化によって心房細動が起こりやすくなります
・逆に、PAFが発生することによって、心臓のポンプ機能が急激に低下して心不全を発症・悪化させます。
DOACの検討
脳梗塞リスクの評価(CHADS2)を行い、適応があれば早期にDOAC導入
必ずしもDOAC導入しないその理由
脳梗塞リスクが極めて低い場合(リスクスコアが0点)
出血リスクが非常に高い場合(重篤な活動性出血がある)
なぜワーファリンより DOAC なのか?
頭蓋内出血(致命的出血)のリスクが著しく低い
PT-INRによる用量調整が不要
食事制限(納豆・青汁・クロレラなど)がない
半減期が短い
DOACが使えないケース
機械弁(人工心臓弁)置換後
DOACの血栓予防効果が不十分
重度の高度腎機能障害(透析患者など)
DOACは腎排泄経路を持つため
病態のポイント
左室駆出率(LVEF)
正常: 50%以上心臓が縮む力(ポンプ機能)は十分に保たれています。
軽度低下: 41%〜49%(HFmrEF)心臓のポンプ機能が少し弱くなっている状態です。
低下: 40%以下(HFrEF)心臓の収縮力がしっかり出ていない状態で注意が必要
EFが改善しても心機能自体が正常に戻ったわけではなく、薬をやめると高確率で再悪化します。中断は厳禁です。
機能性僧帽弁逆流(FMR)
左室の拡大や形態変化によって僧帽弁の引きつれ弁が閉まりきらなくなる病態です。
後負荷(血圧)の上昇によって容易に逆流が悪化するため、徹底した血圧コントロールと前負荷・後負荷軽減がFMR改善のカギを握ります。
「後負荷(血圧)上昇で逆流が悪化する」機序
高負荷上昇により 大動脈側の抵抗(壁)が高くなり、血液が大動脈へ出て行きにくくなる。
左心室内の圧力が著しく上昇する。
行き場を失った血液が、抵抗の低い「僧帽弁の隙間」へ押し出される。
MRを伴う心不全では血管拡張薬(ARNIなど)を用いて後負荷(血圧)を下げてあげることが、直接的にFMRを減らす治療法
前負荷/後負荷
① 前負荷(Preload)= ポンプに入る直前の血液の量
前負荷が大きい状態: 心臓の壁が引き伸ばされて疲弊します
減らす方法: 利尿薬やARNIで尿を出して、体内の余分な水分を減らす。
② 後負荷(Afterload)= ポンプが押し出す時の抵抗
後負荷が大きい状態: 心臓は高い圧力に対して壁が厚くなったりバテたりします
減らす方法: ARNIやACE阻害薬などで血管を拡げて血圧を下げる。
検査値の意義と目標・正常値
BNP<18.5 pg/mg
心筋伸展ストレス・前負荷の指標
退院時BNP100~200 前後を目指す
BNPの本来の役割
心不全になると壁を引き伸ばされた心筋細胞が「これ以上引っ張られたら破裂してしまう!助けてくれ!」と叫んで自ら分泌するのがBNP
①利尿作用
②血管拡張作用
③抗線維化、抗肥大化作用
BNPは心臓が自力で出す
「天然の心不全治療薬」
「必死にBNPを放出して抵抗している SOS の兆候」
長期間心不全が続くとBNP受容体が鈍感になりBNPの効き目自体も落ちてしまいます。
「ARNI(エンレスト)」を使う
BNPを長持ちさせて治療効果を極大化する
ハンプ/一般名:カルペリチドを使う
人工のBNP
Cr<1.1 mg/dl
GDMT(ARNI SGLT2i MRA)開始・増量時の腎機能変化を監視。
導入初期の30%以内のeGFR低下は許容範囲
K:3.5~5.0 mEq/L
スピロノラクトン、ARNI/ACEi使用時は 5.5以上で減量検討。
治療の2大アプローチ
-
心不全側の治療(GDMTの徹底)
ARNIやSGLT2阻害薬等で左室・左房の圧を下げ、リバースリモデリング(心房の縮小)を進めてPAFが出にくい環境を作る。 -
PAF側の治療(レートコントロール + DOAC)
β遮断薬で発作時の頻脈を抑え(目標心拍数 60〜70bpm)スコアに基づきDOACで脳梗塞を予防する。必要に応じてカテーテルアブレーション(心房細動の根治術)を循環器内科医と検討する。
薬物療法:GDMT(ファンタスティック4)
心不全の慢性期では、予後改善・リバースリモデリングの維持を目指して以下の4系統を最適化します。
ARNI / エンレスト
【RAA系抑制 + ANP と BNP分解抑制】
血管拡張・利尿により前負荷・後負荷を同時軽減。FMRの改善に必須。
ARNI(アーニ)
2つの成分が入っています
バルサルタン(ARB)
血管を収縮させて血圧を上げる悪玉ホルモン(アンジオテンシンII)の働きをブロックします。
サクビトリル(ネプリライシン阻害薬)
心臓から分泌されるhANPやBNPが体内で分解されるのを防ぎ、長持ちさせます。
β遮断薬 / ビソプロロール カルベジロール
【交感神経 $\beta_1$ 受容体遮断】
心臓を休ませる。PAFのレートコントロール
房室ブロックでは慎重投与
MRA / スピロノラクトン エプレレノン
【RAA系最下流(アルドステロン)遮断】
心筋の線維化を防ぎ、利尿作用で前負荷を軽減。
K値採血が必須。
SGLT2阻害薬 / ダパグリフロジン エンパグリフロジン
【腎臓で糖・Na排泄 + 心筋エネルギー代謝改善】
元は糖尿病薬
正常血糖ケトアシドーシスに注意
β受容体の主な機能
β受容体(主に心臓に存在)
刺激されると、「心拍数を増やし、心筋の収縮力を強める(心臓を走らせる)」働きをします。
β受容体(主に気管支や血管に存在)
刺激されると、「気管支を拡げ、血管を拡げる」働きをします。
RAA 系の内分泌と関係
ARNI:RAA系の「アンジオテンシンII」受容体を遮断
MRA:RAA系の「アルドステロン」の働きを阻止
アルドステロンは腎臓に働いて「塩分と水分を溜め込み、カリウムを捨てる」作用を持っています。
腎機能に留意
「心腎症候群」の悪循環を防ぐ
心臓と腎臓は運命共同体です。
心不全薬の多くが「腎臓の圧力を一時的に下げる」(Initial Dip)
ARNIやMRA、SGLT2阻害薬などは「腎臓の糸球体にかかる過剰な圧力を下げる」ことで長期的には腎臓を守ります。
薬を飲み始めた直後はフィルターの圧が下がるため、一時的に採血上のeGFRが低下(またはCrが少し上昇)する現象(Initial dip)が起こります。
カリウムに留意
【薬の作用】
・MRA(スピロノラクトン等):アルドステロンの働きを直接ブロックする。
・ARNI / ACEi / ARB:アルドステロンの分泌過程(RAA系)を上流で止める。
6.0 mEq/L 以上
致命的な致死性不整脈(心室細動や高度房室ブロック、心停止) を引き起こす危険がある。
NYHA分類の4段階
- I度
心疾患はあるが、普通の身体活動では症状(息切れや疲労など)がない。
- II度
階段や坂道をのぼるなどの普通の身体活動で症状が出る。安静時は無症状。
- III度
平地を歩くなど、普通以下の軽い身体活動でも症状が出る。安静時は無症状。
- IV度
安静にしていても息切れや心不全の症状がある。少し動くだけでも不快感が強まる。








